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広島地方裁判所 昭和47年(ワ)188号 判決 1974年1月31日

原告 浜田聡 外一名

被告 丸広海運株式会社 外一名

主文

一、被告らは各自原告それぞれに対し金三一八万七、三六〇円およびこれに対する昭和四四年三月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

四、右第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

1  被告らは各自原告それぞれに対し金三六四万七、七一五円およびこれに対する昭和四四年三月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二、被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

(一)  当事者の地位等

1 訴外亡浜田浩二(昭和三七年八月一四日生)は原告ら夫婦の嫡出子である。

2 被告丸広海運株式会社(以下被告会社という。)は海陸運送取扱業、船内荷役、沿岸荷役、筏運送事業等を営む株式会社で、被告広島県(以下被告県という。)の所有管理する港湾施設たる広島市光南町四丁目所在の木材荷揚げ貯木場(以下本件貯木場という。)の西端で輸移入木材の荷揚げ作業と荷揚げされた木材の管理をしている(荷揚げおよび管理責任者は被告会社の吉島出張所長訴外山口次夫である)。

(二)  事故の発生

昭和四四年三月一八日午後〇時三〇分頃、亡浩二は友達四人と本件貯木場に遊びに行き被告会社が同所に積重ねた木材の上で遊んでいたところ、突然木材が崩れ地上から一段目の木材に乗つていた同人は木材と木材との間に下半身(特に腹部や腰部)を挾まれ、そのころ圧迫死するに至つた。

(三)  被告会社の責任(民法七〇九条ないし七一五条)

1 本件貯木場出入口は後記のように開放されており人が自由に出入りしていた。被告会社としては、かかる開放された場所に後記の如き木材を荷揚げすべきではなく、管理者たる被告県等と協議し特に幼児等が立入らぬような対策を講じて後、はじめて荷揚げすべきであつた。しかるに被告会社は右注意義務を怠つたため本件事故が発生するに至つたのである。

2 被告会社所有の木材は南方材で長さ四メートルないし五メートル直径三〇センチメートルないし六五センチメートルで、重さは一本一トンないし一・五トンもあり表面はすべりやすいものである。被告会社の本件貯木場管理責任者たる前記山口は、右木材が危険で崩れやすいものであることを知りながら何らの保安措置(労働省令第九号労働安全衛生規則一六四条の三四、三五参照)も構ぜず、海面から木材をひき上げ、ホークリフトで六、七段の高さに積み重ねただけであつて、従つて木材は平行に並ばず相互間にすき間も多いのにロープもかけられず、網も張られず、また、荷崩れ防止用の杭止めもなかつた。本件事故は前記山口の右過失によつて生じたものである。

(四)  被告県の責任(国家賠償法二条)

1 本件貯木場は港の一部を埋立てたもので、南側は海に面し、東、西、北の三方にはかつての防波堤をそのまま利用した低いコンクリート囲いがあるのみで、事故当時その上部に金網を張る等の安全設備は施されておらず、幼児がこれを乗り越えることも容易であつた。北側には長さ一・七メートル、南側には長さ一〇メートルの各鉄扉があるが、いずれも事故当時開放されたままで、近所の人が自動車を一時駐車させたり子供が遊んだりしていた。また西側のコンクリート囲いの外側に接して盛土があり、その盛土とコンクリート囲いの高さの差はわずか四二センチメートルにすぎず、幼児が容易に乗り越えられるものであつた。

2 本件貯木場のコンクリート囲いや鉄扉は被告県の所有かつ管理する国家賠償法二条一項の「公の営造物」に該当する。

被告県としては、本件貯木場に危険な木材の積み上げを許可したのであるから、木材関係業者以外の立入りを防ぐための金網等を周囲に設置し、鉄扉を閉める等の管理がなされていなければならなかつた。しかるに被告県は右設置並びに管理を怠つたため、亡浩二は西南端の開放されていた鉄扉から本件貯木場に立入つて本件事故を受けるに至つたものである。よつて被告らは民法七一九条により、原告らに対し連帯して後記損害を賠償する責任がある。

(五)  損害

1 亡浩二の逸失利益

厚生省大臣官房統計調査部編第一二回生命表によれば、満七才男子の平均余命は六二・八才であるから、事故時、亡浩二は七〇才弱まで生存することを予期しえたものである。

従つて、同人が高等学校卒業時の満一九才から満六五才まで就労するとして、右四七年間の得べかりし所得を昭和四三年度労働省労働統計調査部賃金構造基本統計調査の「旧中、新高卒年令別の平均きまつて支給する現金給与額ならびに平均年間賞与その他特別給与額」に基いて推定し、同人の就労後の生活費を所得の五割と算定することとし所得より控除のうえホフマン方式により得べかりし純利益を事故時の現価として算出すると七五二万一、六二一円となる。原告らは各自その二分の一の三七六万〇、八一〇円を相続した(他に相続人はない。)。そこで、原告らはそれぞれ右のうち二六四万七、七一五円を請求する。

2 原告らの慰謝料

亡浩二は死亡当時六才まで、吉島幼稚園の最上級クラスに所属し、一ケ月後には小学校へ入学する筈であつたが知能、体格ともにすぐれていたため、原告らの期待は大きく将来大学進学に備えて積み立て預金をしていた程である。亡浩二は重さ一トンほどの木材に下半身をはさまれて声を出すこともできず、苦しみながら死亡したものと想像され、原告弘子は事故を知つた時一時半狂乱となる状態であつた。

以上の事情からすると原告らの請求しうべき慰謝料は各金一〇〇万円が相当である。

よつて、原告らはそれぞれ被告らに対し、右合計金三六四万七、七一五円およびこれに対する本件不法行為の翌日たる昭和四四年三月一九日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する答弁並びに主張

被告会社

(一)  請求原因(一)項の事実は認める。

(二)  同(二)項の事実につき、原告主張の日時場所で亡浩二が事故によつて死亡したことは認めるが、事故の原因は否認する。本件事故は木材が崩れたために生じたのではなく、亡浩二が積み重ねてある木材の上に乗つていた際木材の間隙に足をすべらせ、小さい身体であるから腹部および腰部が木材にはさまつて圧迫されて死亡したものと考えられる。

(三)  被告会社に本件事故の責任があるとの主張は否認する。

1 本件事故当時、本件貯木場の施設が請求原因(四)の1記載のごとき構造であつて人が容易に出入しうる状況であつたことは認めるが、被告会社が右貯木場に人が容易に出入できないような設備を施すべき義務を負担するとの点は争う。本件貯木場は被告県が設置管理するもので、右設備を施すべき義務は被告県が負担すれば足りる。被告会社は本件貯木場の使用条件に反することなく使用を継続し、事故発生前より立入禁止の大きな立札を立てて一般に対する警告をなしてきたものであつて右以上の措置をとる義務も権限も存しない。

2 被告会社が粗雑な木材の取扱いをしていたとの事実は否認する。木材は長さ四メートルないし五メートル位で歯止めをして、高さ一・五メートルないし二メートル位に積み重ねてあつたもので、横に平行に並べて安定を保つていたから容易に崩れるような状態ではなかつた。野積の木材が何時崩れるか分らない危険があるとか、人通りの多い道路端に積むとかいう場合なら木材をしばるとか網をかぶせるとか特別の措置をとる必要もあろうが、本件貯木場は、木材集積用に特別に設けられた施設であり、被告会社は木材を荷揚げし他に搬出するまで、一時、これを保管するため右施設を利用しているのであるから、右のような特別の措置をとる必要はない。

(四)  亡浩二が事故当時六才で吉島幼稚園に通園していたことは認めるが、その相続関係は不知、原告ら主張の損害額は争う。

(五)  過失相殺

亡浩二が、立入禁止の貯木場に立ち入ることの是否を弁識しうる知能を具えなかつたものとすれば、当然に、両親である原告らが監督義務者であり、本件の如き危険な場所に立ち入らせ積重ねた木材の上で遊ばせたことは原告らに監督義務を怠つた過失があることになり、損害額算定につき過失相殺さるべきである。

被告県

(一)  請求原因(一)の1の事実は不知、同2の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、亡浩二が友達四人と貯木場で遊んでいたことについては不知、木材が崩れたことは否認し、その余は認める。

(三)  同(三)の1の事実のうち、貯木場が開放されていたとの事実および同2の事実は不知。

(四)  同(四)の1の事実のうち、鉄扉が開放され、近隣の人が出入りしていたとの事実は不知、幼児が容易に囲いを乗り越えたとの事実は否認する。コンクリート囲いの高さは一メートル余りあつた。

同2の事実のうち、本件貯木場周囲のコンクリート囲いおよび鉄扉等は被告県が所有し、管理している公の営造物であることは認めるが、その設置ないし管理に瑕疵があつたとの点は否認する。本件荷捌地(原告は貯木場という)は通常具備すべき土場、塀、鉄扉、揚陸施設等の諸施設において完備しており、設置自体に瑕疵はない。原告ら主張のごとく人の立ち入りを物理的に遮断する設備の必要なのは、刑務所など完全な閉鎖を要する施設に限られるのであつて、本件荷捌地のような産業施設にはその必要がない。又管理につき被告県は本件荷捌地を被告会社に使用料を受取つて使用させていたものであるから、第一次的管理責任は直接占有者たる被告会社にあり、被告会社が作業状況に応じて鉄扉の開閉をなし立ち入りを禁止すべきものであつて、被告県の管理に瑕疵はない。なお被告県も本件荷捌地に対する間接占有者として施設自体については管理責任を負担するが被告県の担当職員が定期的に本件荷捌地をパトロールしていたところによると本件事故当時施設自体にも瑕疵が発見されなかつた。更に被告県は被告会社らが集積した木材等については所有権、占有権を有せず、被告会社に対して指示すべき権限がないから集積木材の上で発生した本件事故において管理責任はない。

(五)  亡浩二の本件荷捌地立ち入りと本件事故との間の相当因果関係について、

本件事故は、本件荷捌地内に入つた亡浩二が、同所に集積されていた木材の上に登つて遊んでいたところ、何らかの原因(未だ明らかでない)に基いて発生したもので、右何らかの原因と本件事故との間に相当因果関係は肯認されるにしても、本件荷捌地に立ち入ることができたことと事故との間には相当因果関係がない。

(六)  原告ら主張の損害額については争う。

三、過失相殺の主張に対する原告らの反論

原告らは、亡浩二に対し、平素から危険な場所に近寄らぬように、本件貯木場にも立ち入らぬようにと注意してきた。本件事故は、原告弘子が外出する際亡浩二を一時知人宅に預けていたのを、友達に誘われ初めて本件現場に立ち入つたため発生したものであつて、亡浩二は原告らの支配下になく、原告らには監督義務を怠つた過失がない。

第四、証拠関係<省略>

理由

一、事故の発生

訴外亡浜田浩二が昭和四四年三月一八日午後〇時三〇分頃広島市光南町四丁目所在の木材荷揚げ貯木場内の被告会社が積み重ねていた木材の間に下半身を挾まれ、その頃圧迫死したことは当事者間に争いがない。

二、事故の経緯

原告弘子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証、証人国川昌司、山口次夫の各証言ならびに検証の結果(第一回)を総合するとつぎの事実が認められる。

(一)  亡浩二は幼稚園の友達ら四人と、当時開放されていた本件貯木場西南側の門を通つて内に入り、西側中央部分に六段位の高さに積まれていた木材の山に、亡浩二は下から一段目に、他の二人の友達は最上段に登つて遊んでいたところ、突然、材木が上の方からずれ落ち、亡浩二は一段目の木材に腰をかけるような姿勢でずれ落ちた木材のために下腹部をはさまれ右臀部、下腹部に広範囲の挫創を伴う腹部腰部の圧迫により死亡するに至つた。

(二)  右木林は直径四〇センチメートルないし六〇センチメートル、長さ四メートル六〇センチ位、重さ〇・五トンないし一トンの南方材で、被告会社が海中から陸揚げし、ホークリフトで持ち上げて西側中央部分の箇所に並べ、ついで順次六段の高さにまで積み重ね最下段の木材の両端に石をはさんで安定させていたものであつたが、木材の崩落防止のために右のほか格別の措置はとられていなかつた。

以上の事実が認められる。右認定事実に徴すると、本件事故は亡浩二の友達が積み重ねられた木材の最上段に乗つたため木材のバランスが崩れて一部の木材がずれ落ち、亡浩二がこれにはさまれたものと推認することができる。被告らは木材が崩れた事実なく、本件事故は亡浩二自ら木材と木材とのすき間に落ち込んで発生したものと主張し、証人山口次夫並びに被告会社代表者本人尋問の結果によると本件事故現場には集積木材が崩れ落ちた形跡のなかつたことが認められるが、他方証人青谷龍彦の証言によれば、本件のような集積木材は、大きく崩れる場合に限らず、木材間にすき間があるため一部木材がずれ落ちることのあることが認められ、又もし亡浩二が自ら木材間の隙間に落込んだとした場合前認定のような傷害を負つて死亡することは通常考えられないから被告らの右主張は採用しえない。

三、被告らの責任

(一)  本件貯木場の使用関係について

証人山口次夫の証言および被告会社代表者本人尋問の結果によれば、本件貯木場は被告県の所有管理する港湾荷揚地で荷役会社の組織である訴外「ステベ協会」が被告県より借り受け、同協会の構成会社が部分を定めて使用していたこと、被告会社は荷主の木材を泊地より本件貯木場に貯留し、売却までの間保管していたことが認められる。

(二)  被告県の責任について(本件貯木場の設置、管理の瑕疵)

1  成立に争いのない丙第二ないし第四号証ならびに検証の結果(第一、二回)によれば、本件事故当時、本件貯木場の北側および西側はコンクリート塀に囲まれ、南側は巾員一〇・三メートルの道路を経て海面貯木場に面し、被告会社はその西端の一画を占有していたこと、貯木場の北側および西南側には鉄製の扉があり、北側において巾二五センチメートル、高さ八五センチメートル、長さ一〇メートル三〇センチ、西南側において巾四五センチメートル、高さ一メートル二〇センチ、長さ一六メートルで、それぞれ西側、南側方向に引込線がついていて開閉できるようになつていたことが認められる。

2  しかして証人山口次夫の証言によると、右二ケ所の鉄製の扉は箱型の重いもので開閉が困難であり、台風のときなどには被告県の職員がトラツクで引つ張つて閉めており、特に西南側の扉は開放されたままであつたことが認められこれに反する証拠はない。

3  右山口証言ほか証人森富士雄、守川秀子、伊藤芳雄の各証言に徴すると本件貯木場近辺には人家や会社事務所が多数存在し、又事故前頃は木材が余り集積されておらず右のように西南側出入口からの立ち入りが可能であつたから被告会社被告県の各立入禁止の立札が掲げられているとはいえ事実上厳に立ち入りの制止がなされなかつたので昼休み等には近所の人々がキヤツチボールをしたり危険を認識しえない子供が遊び場として使用していたことが認められ、これに反する証拠はない。

以上認定事実に徴し考慮するに、

本件貯木場は被告会社ら荷役会社が海中から荷揚げした長さ四メートル以上、重量〇・五トンないし一トンの木材を売却までの一時期積重ねて保管するために使用している箇所であつて、雑然と木材の山を形作るのが通例であるから大抵最下段には石等で歯止めされているとしても必ずしも安定しているとはいえず崩壊の危険性が存するから、もし貯木場近辺の住民が自由に貯木場内に立入り積重ねた木材の周囲を歩行する際或いは特に幼児等が好奇心に駆られて右木材の上に上つたりして不安定になつた場合崩壊して死傷事故の発生するおそれのあることはた易く予見しうるところである。従つて本件貯木場設置者たる被告県としては、貯木場を使用する被告会社らが荷役運搬等業務のため出入する場合を除き近辺の住民、幼児等が右の危険を知らないで立ち入るのを防ぐ為随時適切に出入口を閉鎖することのできる扉を設置すべき義務を負担するものといわねばならない。

しかるに本件貯木場西南側出入口には扉があるとはいえ鉄製で重いため開閉が困難で開放されたままになつており本件において亡浩二も右出入口から貯木場内に立ち入り本件事故の発生に至つたものであることがうかがえるのであつて被告県としては少くとも貯木場出入口の扉の設置につき瑕疵が存したものというべきである。(なお、前記丙第二ないし第四号証並びに第二回の検証の結果によると、事故後の現状では西南側の出入口に従前の鉄扉よりも高い軽量の二枚の扉が左右に開閉できるように設置されるに至つた。)。被告県が立入禁止の掲示をしていたことは前認定のとおりであるが貯木場扉の設置に瑕疵が存することに影響を及ぼすものではない。さらに、被告県は貯木場出入口の扉を開閉して貯木場を管理する責任は直接占有者たる被告会社らが負担すべきものであると主張するが、すでに右扉の設置に瑕疵が存する以上、被告県の責任に消長を来すものではない。

しかして貯木場出入口の扉の設置に瑕疵が存し閉鎖できないで解放されたままの状態であつたため幼児が危険を認識しえないで貯木場内に立ち入る場合、場内に積重ねられた木材がずれ落ちて被害を蒙ることは通常予想しうる事柄であるから右瑕疵と本件事故との間には相当因果関係があるということができ、従つて被告県は国家賠償法二条にもとずき原告らに対し後記損害を賠償する責任がある。

(三)  被告会社の責任について

証人山口次夫の証言および被告会社代表者本人尋問の結果並びに検証の結果(第一回)によると本件貯木場の木材は陸揚げされるまで二〇日間以上海面に浮ばせておきそのうち沈みそうなものを選んで陸揚げしたものであるから、材質が重くかつ表面が滑り易くなつていること、各木材の直径、長さが必ずしも均一ではないのでこれらを積み重ねる場合には、往々にして不安定な積み方となり得ることが認められ、この認定をくつがえすに足る証拠はない。

しかして前認定のごとく本件貯木場の出入口は近辺の住民、幼児らが立ち入ることを防止しうるような扉の設置に瑕疵があり証人山口次夫の証言によれば被告会社(本件貯木場責任者山口次夫)としても貯木場内にしばしば子供らが立ち入つて遊んでいることを知つていたことが認められるから被告会社が陸揚げした木材を積み重ねるに当つては万一の事故の発生を防止するため崩落することのないようにすき間なく木材を積み上げるべきであり、さらに集積木材が不安定な状況にあるときはロープで縛付るなどして安定させるべき注意義務を負担するものというべきである。しかるに右山口証言によれば、同人は、木材を集積するにあたり被告会社の従業員に対して、集積場所の指示をなした後は事務所に帰り、その後三、四回様子を見回つた程度に止まりその際従業員に対し危険防止のため右の如き格別の指示を与えていないこと、本件事故は一本〇・五トンないし一トン位の重量のある木材が幼稚園児二、三人の重さにより容易にずれ落ちたものであることを考慮すると被告会社の従業員が漫然と木材を積み上げていつたため、木材の山が不安定な状態にあつたものと認めることができ、また、右の状況にもかかわらずロープをかけるなどして安定を図る措置がとられなかつたことが認められる。証人山口次夫の証言並びに被告会社代表者尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信しない。なお、前認定のごとく集積木材最下段には崩落防止のため歯止めをしているけれども本件事故は上段の木材を不安定な状態で積み重ねたため生じたものであつて右措置を以て被告会社が充分な注意義務を果たしたものとはいえない。

そうすると本件事故は被告会社の従業員たる山口次夫らの前記過失によつて生じたものであるから被告会社は民法七一五条により、原告らに対し後記損害を賠償する責任がある。

四、原告らの損害額について

(一)  亡浩二の逸失利益と原告らの損害額

1  成立に争いのない甲第一号証原告ら各本人尋問の結果によれば亡浩二は本件事故当時満六才であり、健康体であつたことが認められるから、なお六三・六三年の平均余命があることが認められ(厚生省第一二回生命表)その間少なくとも満一八才から満六〇才に達するまで四二年間は稼働できたと認めるのが相当である。そして、昭和四三年度賃金センサス第一巻第一表によれば、全産業旧中新高卒男子労働者の平均月間きまつて支給する現金給与額は四万八、〇〇〇円、平均年間賞与その他の特別給与額は一四万三、五〇〇円であることが明らかである。そこで右稼働期間中の生活費を収入の五割と算定して右期間中の純収入につきホフマン方式に従い年五分の割合による中間利息を控除して同人死亡当時における逸失利益の現価を算出すると(48,000×12+143,500)×1/2×(25.8056-9.2151)= 5,968,400円(100円未満切捨)となる。

2  しかして、亡浩二は本件事故当時満六才であつて事理弁識能力が必ずしも充分でなかつたと認めるのが相当であるから、同人の保護者たる原告ら(亡浩二が原告らの嫡出子であることは、原告らと被告会社間には争いなく、また、成立に争いのない甲第一号証によつて認められる。)は亡浩二に対し事故等の危害を受けないよう日頃から適切な保護監督指導をなすべき注意義務があるといえるが原告弘子本人尋問の結果によれば原告らの住所は本件貯木場から歩いて二、三分の距離にあり本件貯木場出入口には前認定のごとく立入禁止の立札が掲げられているに拘わらず西南側の出入口の扉は常に開放されたままであるから遊び盛りの亡浩二が危険を認識しえないで内部に立ち入ることが考えられるので原告らとしては同人に対し厳に立ち入りを戒め貯木場内の事故を避けるよう保護すべきであつたといえる。従つて原告らとしても亡浩二の保護監督に欠けたものがあつたというべきであるから本件損害賠償額を算定するにあたり、原告の右不注意を斟酌し二割の減額を認めるのが相当である。

3  浩二が原告らの嫡出子であることは前判示のとおりであり、前記甲第一号証によれば、浩二には原告らのほかには相続人がいないことが認められるから、原告らは前記亡浩二の逸失利益の二分の一を相続したこととなり右過失相殺の減額をすると原告らについて各二三八万七、三六〇円となる。

(二)  原告らの慰謝料

亡浩二は長男であつて死亡当時満六才の児童で小学校入学を控え原告ら両親の期待と喜びは格別なものがあつたと考えられるが本件事故により一瞬にして亡浩二が生命を失い原告らの期待と喜びが悲しみに変り原告らの精神的苦痛が甚大であつたことは容易に推察できるところである。そこで本件事故の態様、その他これまでに認定した諸般の事情を考慮したうえその精神的苦痛を慰謝するため原告らに対し各金八〇万円の金銭の支払を以つてするのが相当と認める。

五、結論

そこで、原告らの本訴請求のうち、被告らに対し、各自金三一八万七、三六〇円およびこれに対する不法行為の翌日たる昭和四四年三月一九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分を正当として認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺博介 海老沢美広 広田聰)

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